古キョン的には全く救いはありません。ご注意を;;
「…あ…。」
「…よお。」
何年ぶりかで再会した彼は、僕に笑いかけた。
その笑顔は、記憶よりずっと穏やかなものだった。
「…あの…。」
「久しぶりだな。
…あの時は黙って出て悪かった。」
謝られて驚いた。
彼が一緒に暮らしていた僕の家から出ていったのは、
どう考えても僕のせいだったのに。
高校を卒業し、僕たちは一緒に暮らしていた。
友人としてではなく恋人として…だった。
少なくともその時は彼はそのつもりだっただろう。
でも僕は。
あの頃彼をただ都合のいい身体の相手としか思っていなかった。
彼とも寝ながら、
何度も彼との部屋で別の女とも寝た。
罪悪感なんてかけらも持っていなかった。
最初はすごい剣幕で怒った彼も、回数が二桁を越す頃には静かになった。
いや、その頃には普段の会話もなくなっていた。
その事にどこか苛立ちを感じ、僕は一週間ほど家に帰らなかった。
そうすれば彼も少しは反省するだろうと思って。
だが帰った時、彼の姿は消えていた。
彼の荷物と共に。
彼の気配が消えた部屋で僕は立ちすくんだ。
その時やっと自分のやってきた事がなんであったのか知ったのだ。
彼と会うのは、それ以来だった。
「あなたが…謝る事はないです。
悪いのは…。」
「ああ、もうその話はいいよ。終わった事だし。」
「…っ。」
謝罪を遮られ、僕は言葉を失う。
彼にとってはもう過去の思い出にすぎない、その事実がのしかかる。
のしかかることで過去にできない自分を思い知る。
あの日から一日たりとも、僕は彼を忘れられなかったのに。
「でも…。」
「いいんだよ。それよりな、古泉。」
…もう一樹とも呼んでくれないんだな。
…何を考えているんだろう。
僕は彼に傷以外何も与えなかったのに。
求めるばかりだった自分にも反吐が出る。
そして彼は言った。
「俺、結婚するから。」
「…!」
目の前が真っ暗になった。
だが彼は僕の内心など全く気付かずに続けた。
「だから安心してくれ。」
…あん、しん…?
「…どういう意味ですか。」
「だってお前言ってたから。…まあ覚えてなきゃいいよ。」
「え…?」
「いや、じゃあな。」
彼はそれだけ言うと立ち去った。
待ってください。
そう叫びたかった。
今でもあなたを愛してるんです。
いいえ、あの頃からあなただけが好きだった。
なのに、一言も口からは出てこなかった。
いや、出せなかったのだ。
彼が家出する前、最後になったあの日に僕が言った言葉。
それを思い出したのだ。
『あなたと関わるんじゃなかった。』
同時にさっきの笑顔を思い出す。
『だから安心してくれ。』
「…!」
もう僕には関わらない
と
今の笑顔は彼の絶縁状だと。
気付いた時。
僕は本当の絶望を知った。
彼は背中を向けて僕から離れて行った。
その背中はすでに僕に語ることをしなかった。
拒絶すらも。
end
酷泉…好きなんで挑戦しましたが…。結局かわいそうにしてしまいました;
ラスト3行ちょっと加えました。なんとなくv
戻る